涅槃経巻2に説かれる譬え。正法護持の精神を教えている。日蓮大聖人は「開目抄」で、この譬えを御自身に引き合わせて述べられた後、「我並びに我が弟子・諸難ありとも疑う心なくば自然に仏界にいたるべし」(234㌻)と仰せになり、諸難があっても疑う心なく不退の信心を貫けば、おのずから成仏の大利益を得ることができると弟子に呼び掛けられている。
【譬えの内容】ある貧しい女性がいて、住む家もなく保護してくれる人もなく病苦まであった。この貧女は、飢えや渇きに苦しめられ物乞いをしていたが、宿屋に住みつき、一人の子を産んだ。貧女は宿屋の主人から追い出されてしまい、幼子を抱きかかえながら他の国に行こうとした。その途中、ひどい風雨に遭い、寒さや苦しみに責められ、蚊や虻、蜂や毒虫に食われた。やがてガンジス川にさしかかり、子を抱いて渡り始めた。川の流れは急であったが、子を手放さなかったため、ついに母子ともに沈んでしまった。この女性は、一心に子を慈しみ思う功徳によって、死後、梵天に生まれた。釈尊は以上の譬えを通し、正法を守ろうとするなら、貧女が子のために身命を捨てたようにすべきであり、この人は解脱を求めずともおのずから解脱を得ることができると教えている。▷涅槃経