仏の世界。仏が体現した、慈悲と智慧にあふれる尊極の境涯。仏(仏陀)とは覚者の意で、宇宙と生命を貫く根源の法である妙法に目覚めた人のこと。具体的にはインドで生まれた釈尊(釈迦仏)が挙げられる。諸経には阿弥陀仏などの種々の仏が説かれるが、これは仏の境涯の素晴らしさを一面から譬喩的に示した架空の仏である。諸経に説かれる仏の世界も仏に相応して違いがある。すなわち、諸経の仏とその世界は、それぞれの経にとって目指すべき理想であるといえる。法華経本門では釈尊の本地が久遠の仏であるという久遠実成[くおんじつじょう]が明かされ、その永遠の国土が娑婆世界と一体であるという娑婆即寂光[しゃばそくじゃっこう]が明かされた。
日蓮大聖人は「観心本尊抄」で、この仏と仏の世界が凡夫の己心に本来そなわっていることを明かし、南無妙法蓮華経を受持することによってそれを開き現すことができると説かれている。仏界と信心との深い関係について同抄では、「末代の凡夫出生して法華経を信ずるは人界に仏界を具足する故なり」(241㌻)と述べられている。法華経は万人が成仏できることを説く教えであるが、その法華経を信ずることができるのは、人間としての自分の生命の中に本来、仏界がそなわっているからである。また同抄では、人界に仏界がそなわっている現実の証拠として、釈尊が凡夫から仏となったこと、不軽菩薩[ふきょうぼさつ]がすべての人に仏界を見て礼拝したこと、堯[ぎょう]や舜[しゅん]という古代の伝説的な帝王が万人に対して偏頗なく慈愛を注いだことを挙げられている(242㌻)。▷釈尊/慈悲/十界/娑婆即寂光